KAZU1沈没原因 造船屋から見た原因を考える
KAZU 1サルベ-ジに思う造船屋から一言
せっかく引き上げたKAZU1が海底に落ちたことは残念でした。
作業に当たった方のショックは計り知れないと思います。
多くの経験をもった方々でも、想像を超えた事態は発生するものです。
私はこの業界にいるので、どこかのテレビ局のちょっと船に乗ったことのあるコメンテ-タ-のような評論をするつもりはありません。
私の経営するタグ会社でも、かれこれ35年前、館山の沖水深70mのところで
曳船がロシア船と衝突沈没し、3人が死亡しました。一人の遺体は船内から引き揚げましたが、あと二人は不明でした。3人の葬儀を出しましたが、これから大学生になる子供がいまして、大変でした。
ですから亡くなった家族の思いは十分理解できます。
遺体のない葬儀の骨壺の中には沈没した近くの海岸の砂を入れると古老から
教えられ、葬儀はそのようにしました。
調査に当たってくれたのは同じサルベ-ジ会社の方々でした。
しかし今回の件では私のケースと違います。
まず民間の事故に対して、どうして国が費用負担して引き上げるかということです。
まずふつうはありえません。
今国は沈没原因を究明するために引き上げると言っておりますが
そもそも19GTの小型船は検査は一般の船のようにありますが、検査員が各地区に巡回するのは2週間に1回しかなく、船がドックに上がっておらず、浮いた状況もあります。
ですから検査員が船底まできっちり検査しているかどうかはタイミングによります。
おそらく今回の事故で法改正するのでしょうが、
ではきっちりやるには検査員はどう確保するのかが問題です。
せめて定員12名以上の旅客船のみに限定してもらいたいと思います。
それでも遊漁船がいますのでどうなることやら。
もう一つは小型船舶の免許の問題があります。
私は大型船の免許と小型1級の免許を持っております。
小型1級の免許を取りに行ったときですが、1週間くらいで取りますので
大した講習はありません。
地文航法や海図の読み方、航海計器の理論や海上衝突予防法など、
船は大きい小さいにかかわらず、多くの知識が必要です。
それをまともにやったら半年くらいはかかるでしょうね。
一番大事なことは船と航海に慣れることです。
航海訓練所で1年もの実習を経て実務につきますが、実際自分が当直に立ちますと、
漁船の大群がくれば足がすくみます。東京湾や瀬戸内海、シンガポ-ル海峡など、
しんどい思いをしてやっと一人前ですね。
それにもかかわらず、小型旅客船でちょっと免許をとって船長というのは
考えものです。(船の大小、航路あるので一概に言えませんが)
旅客船の場合せめてベテラン船長の下で1年は修業し、船員手帳に実績がないと
怖いと思います。
だいぶ前ですが、弊社の造船所に近くの海岸に乗り上げた曳船が
修理に来ました。
船長に、なんで浅いのに乗り上げたの?と聞きましたら、
電子海図で海になっていたから大丈夫と思ったそうです。
海は浅いところも海なんですよ。
神奈川県の猿島暗礁で乗り上げたプレジャ-ボ-トの船長も
理由を聞きましたら、まさか暗礁があるとは思いませんでしたとのこと。
これは多いです。
つまり、海図を見てないし、理解できていないということです。
なんとなくいつも走っていて大丈夫だったということですね。
今回KAZU 1の事故はおいおい原因が究明されるでしょうが
原因は、
- 荒天予想がでているにも関わらず出港したこと。
- 船体の潜在的瑕疵または機関の停止
- 浸水
- 会社の安全運航に対する経験及び認識欠如
- 船長の経験不足
- 会社の資金繰り悪化
- 通信設備等の不備
こんなことが考えられます。
直接的原因と間接的原因ごちゃまぜですが、4月24日午後は南の強風のため船は沖に流されます。沈没時の水深100m以上ですので、おそらく座礁は原因でありません。
波浪による浸水なのか船体亀裂による浸水の可能性が考えられます。
船体亀裂はFRPの場合積層構造ですので、見た目に大したことない亀裂でも、
3mの波浪の中で船体にホギングサギングによる応力が繰り返しかかることで拡大し、
船体破損につながります。
なくたった方のご冥福を祈るとともに、
これからの調査の結果を待ちたいと思います。